1-16-0 刑法判例16-被害者を利用した殺人
(1) 事案(最決H16.1.20)
Xは、ホストクラブにおいてホストをしていたが、数箇月間遊興費の支払いを滞納していた客であるA女に対し、激しい暴行、脅迫を加え、分割でこれを支払わせていた。 しかし、Xは、分割返済では飽き足らず、Aに多額の生命保険を掛けた上で自殺させ、保険金を取得しようと企て、Aを合計13件の生命保険に加入させた上、婚姻意思がないのにAと偽装結婚して、保険金の受取人をXに変更させるなどした。 Xは、自らの借金の返済のため、急ぎまとまった金が必要になったので、当初の計画を繰り上げ、Aに自殺を強いる一方、Aの死亡が自動車の海中転落事故に起因するものであるように見せ掛けて、保険金5億9800万円を早期に取得しようと企てるに至った。 そこで、Xは、自己の言いなりになっていたAに対し、平成12年1月9日、死んで保険金で払えと迫った上、本件犯行現場である愛知県知多半島の漁港まで行かせたが、その日は付近に人の気配があったため、Aを海に飛び込ませることを断念した。 Xは、翌10日、Aに対し、事故を装って車ごと海に飛び込むという自殺の方法を具体的に指示したが、Aが「明日やるから。」などと言って哀願を繰り返したため、「絶対やれよ。やらなかったらおれがやってやる。」などと申し向けた上、さらに翌日に持ち越した。Aは、Xの命令に応じて自殺する気持ちはなかったが、それでは家族らに迷惑が掛かるなどと思い悩み、車ごと海に飛び込んで生き残る可能性にかけ、死亡を装ってXから身を隠そうと考えるに至った。 翌11日午前2時過ぎころ、Xは、Aを車に乗せて本件漁港に至り、Aに対し、「昨日言ったことを覚えているな。」などと申し向け、さらに、ドアをロックすること、窓を閉めること、シートベルトをすることなどを指示した上、車ごと海に飛び込むように命じた。 Xは、前日のようにAから哀願される可能性があると考え、現場を離れた。それから間もなく、Aは岸壁上から海中に同車もろとも転落した。 Aは、脱出に備えて、シートベルトをせず、運転席ドアの窓ガラスを開けるなどしていたため、車が水没する前に、運転席ドアの窓から脱出し、港内に停泊中の漁船に泳いでたどり着き、はい上がるなどして死亡を免れた。 本件現場の海は、当時、岸壁の上端から海面まで約1.9m、水深約3.7m、水温約11度という状況にあり、このような海に車ごと飛び込めば、脱出に失敗する危険性は高く、また脱出に成功したとしても、冷水に触れて心臓マヒを起こし、あるいは心臓や脳の機能障害、運動機能の低下を来たして死亡する危険性は極めて高いものであった。 そこで、XにAに対する殺人未遂罪が成立するかが争われた。
(4) 実践的書き方
1 (1)(199条)の成否 (1)Xは、保険金目的でAを(2)させようとしているが、Aに(3)・(4)を加えるなどしていることから、(5)が成立しないか。 この点、(6)と(7)(202条前段)との区別は、(8)が(9)の(10)な(11)に基づいて行われたか否かで判断すべきである。 ※理由付けは特に不要でしょう。 (2)(あてはめ)そこで検討すると、確かにAはXの命令に応じて(12)する気持ちまではなかったと認められるが、従前からXはAに(13)・(14)を加えて金員を支払わせ、多額の生命保険を掛けさせ、偽装結婚を強いるなど、意のままに従わせてきたものと認められる。そして、本件前日・当日には(15)の方法を(16)に指示した上、Aの動向を監視している。そうすると、Aは、Xの指示通り車ごと海中に飛び込む以外の行為を選択することができない(17)にあったといえ、Aの行為は(18)な(19)の結果なされたものではない。 (3)そして、本件現場は冬の海であり、脱出に失敗する可能性は高く、仮に脱出に成功しても、水温約11度の冷水に触れて心臓マヒなどで死亡する(20)は高かったから、Aの行為は自らを(21)させる(22)の高い行為であったと言える。 (4)以上より、Aの行為は(23)な(24)の結果なされたものではなく、Xの(25)・(26)によってなされたものであり、かつXがAにこのような行為をさせることは、Aを死亡させるという(27)を有するから、(28)の(29)(30)を充足する。 (5)錯誤 なお、Xは「Aは真実自殺するつもりだ」と認識しており、(31)との(32)がみられる。また、Xは車のドアとシートベルトがロックされ、窓が閉まっていると認識しており、(33)との(34)がみられる。 しかし、(35)の(36)は(37)(38)に対する(39)であることから、(40)の(41)で(42)していれば(43)を(44)することはない。 本件では、Aの行為は前述のとおり自らを(45)させる(46)の高い行為であったから、(47)の(48)で(49)しており、(50)を(51)しない。 (6)以上より、Xに(52)の(53)の(54)が認められるが、Aは死亡していないので、Xに(55)(199条、203条)が成立する。
※回答内容が保存され、問題作成者が閲覧できます