1-06-0 刑法判例6-自招侵害

1 自招侵害

(1) 事案(最決H20.5.20)

(事実関係には深刻な争いがありましたが、以下では双方の主張を抜粋して記載します。) 平成17年11月17日の午後7時30分ころ、A(当時51歳)は、府中市内のゴミ集積場にて自転車に乗ったまま、車道側からゴミを捨てていた。そこに通りがかった被告人X(当時41歳)は、Aの様子をしばらく観察して声をかけた。これをAは、「近隣住民でないXがここにゴミを捨てようとしている」と受け止めたことから、口論となった。 こうした中、XはAのほほをいきなり手拳で1回殴打し(第一暴行)、走って立ち去った。 そこでAは腹を立て、「やられたらやり返す」との気持ちから、「待て」と言いながら、自転車に乗ってXを追いかけた。そして約26.5m先の歩道を左折してさらに60m先で、Xに追いつきざまに1回、プロレスのラリアット技のように、右腕を地面と水平に挙げて後方から前に出してXの背中の上部又は首付近を強く殴打した(第ニ暴行)ため、Xは前方に倒れ、はずみでAの自転車も倒れた。 Xは、まもなく起き上がり、自転車を起こそうとしていたAに向かって行き、つかみ合う恰好になる中で、護身用に携帯していた長さ約56cmの金属製の特殊警棒を衣服から取り出し、Aの顔面や防御しようとした左手を数回殴打する暴行(第三暴行)を加え、Aに加療約3週間を要する顔面挫創、左手小指中節骨骨折の傷害を負わせた。 その後、他の通行人等によってXとAは制圧され、通報によって駆け付けた警察官にXは現行犯逮捕された。 Xは第三暴行に基づく傷害罪で起訴されたが、Aが第二暴行を行っているため、第三暴行について正当防衛が成立するとXが主張した事案。





(3) 実践的書き方

1 Xの第三暴行について Xは金属製の特殊警棒でAの顔面等を数回殴打し、Aに顔面挫創等を負わせているから、(1)(2)と言え、傷害罪(204条)の(3)(4)(5)をみたす。また、Xには、傷害罪の故意も認められる。 ※問題のない部分は、極力短く! (6)事由 (1)もっとも、Xは、(7)してAから第二暴行を受けているので、Xの行為は(8)(36条1項)とならないか。 (2)この点、第三暴行に先立ち、AはXの後方から自転車でラリアットのような強い殴打行為を加えており、その後もAの(9)(10)したといえる状況はないから、Xにとっては「(11)(12)」が存在していたといえる。 ※社会的相当性を否定する説で書くなら、急迫性は肯定してよいです。 (3)また、Aの攻撃は、自転車に乗りながら、Xの背後から強く殴打するというもので、(13)なものだったから、Xが金属製の警棒で殴打する行為は、(14)かつ(15)なものだったと言えなくもない。 ※この辺から少し微妙。 (4)しかし、Xの第三暴行は、(16)にAに向かって殴打行為に及んでいるといえ、「(17)」の行為とみるのは困難である。 ※「(18)」が微妙(正当防衛否定方向)だったので、後で書きました。 (5)さらに、XはAの第二暴行を受けるに先立ち、第一暴行を加えている。そこで、(19)(20)(21)際には(22)(23)のではないかが問題となる。 ※防衛の意思については、今回は省略しました。(認定できる事情も少ないし、結局防衛行為を否定するので) ア この点、そもそも(24)において(25)(26)されるのは、行為が(27)を有するからであると考えられる。そこで、(28)として、①(29)(30)による場合は、(31)(32)は失われないが、②(33)による場合は(34)が失われると解する。 イ これを本件についてみると、XはAのほほを手拳で殴打するという故意の第一暴行を行っているから、(35)として第三暴行の(36)は失われる また、第二暴行は相当強いものであったが、第一暴行も、いきなり手拳で殴打するという相当強いものである。したがって、第二暴行が第一暴行の(37)(38)(39)ような場合として(40)第三暴行の(41)(42)されることもない。 ※短く表現するときは、気を付けないと、何を言っているかわからなくなりやすいので注意 (6)以上より、本件ではXの第三暴行は(43)を有せず、(44)は成立しない。したがってXの第三暴行は傷害罪となる。

※回答内容が保存され、問題作成者が閲覧できます