1-19-0 刑法判例19-共同正犯と幇助犯

(1) 事案(福岡地判S59.8.30)

それぞれ暴力団の組長であったA・B・Cは、対立抗争中の暴力団幹部Vの殺害とVの所持する覚せい剤の強取により、その相手方暴力団の力を弱めようと計画した。そこで、Aは、Vに対し、覚せい剤の買手がいるように装って覚せい剤の取引を申込み、Vから覚せい剤1.4kgを売る旨の返事を得た。 後日、Aは博多駅前の甲ホテル303号室にVを案内し、先方(買主)と話をしてくると言って309号室に行き、B・C・D(Bの友人)及びXと会って再び303号室に戻った。その後、Vに対し「先方は品物を受け取るまでは金はやれんと言うとる」と告げると、Vは「こっちも金を見らんでは渡されん」と答えた。しばらくやりとりが続いたあと、Vが譲歩して「なら、これあんたに預けるわ」と言いながらAに覚せい剤を渡したので、Aは覚せい剤を受け取ってその場に居合わせたDに渡し、Vに「一寸待ってて」と言い、Dと共に303号室を出て309号室に向かった。そして、Cに対し「行ってくれ」と述べて303号室に行くように指示し、A・Dは覚せい剤を持って逃走した。CはAと入れ替わりに303号室に入り、至近距離からVめがけて拳銃で弾丸5発を発射したが、Vが防弾チョッキを着ていたので、全治2ヶ月間を要する左上腕貫通銃創・左上腕骨々折等の重傷を負わせたにとどまり、殺害するに至らなかった。 Xは、Aらの上記犯行に際し、上記計画の内容を知りながら、いずれもAの指示・命令により、(1)甲ホテルの303・309号室の2室を予約し、(2)覚せい剤の買手とVとの取り次ぎ役を装って、303号室と309号室を行き来し、Vの面前において、309号室に覚せい剤の買手がいるかのように装い、(3)覚せい剤を買手に検分させることをVが了承したため、303号室から309号室に覚せい剤を搬出・運搬し、309号室において用意していたショルダーバックに覚せい剤を入れ、Aとともに、ショルダーバックを持って直ちに甲ホテルを脱出し、Aらの犯行を容易ならしめた。 そこで、Xに強盗殺人未遂罪の共同正犯が成立しないかが問題となった事案(なお、Aら本犯者については最決S61.11.18より強盗殺人未遂罪が成立している)。





(4) 実践的書き方

第1 Aの罪責 1 強盗殺人未遂(240条、243条) …(検討→肯定) 第2 Xの罪責 ※Xを共同正犯にするか、幇助犯にするかで、書き方(答案構成)が変わってくるので、最初に決めてから書き始めること。これは「幇助犯にする」と言う結論が自分の中で決まっている場合の書き方。 1 共同正犯とほう助犯の区別 (1)XはAの指示により、Vの面前で覚せい剤の買い手がいるかのように装い、覚せい剤を受け取って運搬するなど、Aらの(1)(2)を分担している。そこで、Xにも(3)(4)が成立するか。 (2)そもそも、(5)が「(6)」(60条)とされるのは、(7)(8)のもとに、他人の行為を(9)(10)(11)して犯罪を実現するからである。だとすれば、①(12)に見て、(13)(14)を果たしており、かつ、②(15)に見て、(16)(17)場合(18)となると解する。 ※一次規範はこのくらいの短さでもOK (3)本件で、Xは、ホテルの部屋を予約し、覚せい剤をVから受け取って運搬しているが、これらの行為はA・B・Cが代わりに行うこともできたと認められる。また、Vに対して覚せい剤の買い手がいるように装った際にも、(19)にVを(20)(21)したわけではない。したがって、(22)(23)(24)を果たしていない。(①) また、XはAに対し特に深い付き合いがあったわけでもない。またXはVに対し何も恨みはなく、覚せい剤自体を必要とする事情もなかった。さらに、本件犯行に加担することによる報酬の約束もない。したがって、(25)にみて、(26)を有しているとは言えない。(②) ※設例だけでは少し評価が足りないので、実際の裁判例から事実を補足しました。 (4)以上より、Xに強盗殺人未遂の共同正犯は成立しない。 2(27)犯(62条1項) (1)では、XはAの(28)(29)したといえるか。 この点Aが(30)(31)に出ていることは認められる。そして、XはAらの(32)(33)(34)することにより、(35)にAの(36)(37)にしているといえる。したがって、(38)(39)の存在と(40)(41)がそれぞれ認められる。 また、Xには、自己の行為がAらの実行行為を容易にしている(42)(43)(44)(45)も認められる。 (2)したがって、Xは(46)(47)となる。 ※本件では、「実行行為の一部を分担している」ことから、幇助犯成立は問題ないでしょう。なので、かなり雑なあてはめになっています。

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