1-18-0 刑法判例18-共謀共同正犯
(1) 事案(最決H15.5.1)
Xは、兵庫・大阪を本拠地とする3代目山健組組長兼5代目山口組若頭補佐の地位にあり、配下に総勢約3100名余りの組員を抱えていた。山健組には、Xを専属で警護するボディガードが複数名おり、この者たちは、アメリカ合衆国の警察の特殊部隊に由来する「スワット」という名称で呼ばれていた。スワットは、襲撃してきた相手に対抗できるように、けん銃等の装備を持ち、Xが外出して帰宅するまで終始Xと行動を共にし、警護する役割を担っていた。 Xとスワットらとの間には、スワットたる者は個々の任務の実行に際しては、Xに指示されて動くのではなく、その気持ちを酌んで自分の器量で自分が責任をとれるやり方で警護の役を果たすものであるという共通認識があった。 平成9年12月下旬ころ、Xは、遊興等の目的で上京することを決めた。この上京に際し随行するスワットらは、同年8月ころに山口組若頭兼宅見組組長が殺害される事件があったことから、Xに対する襲撃を懸念し、Xを防御するためのけん銃等を準備した。 Xらは12月25日に上京し、翌26日午前4時過ぎころ、最後の遊興地である港区六本木の飲食店を出て宿泊先に向かう際、警察官らに車列の停止を求められた。そして、あらかじめ発付を得ていた捜索差押許可状による捜索差押えが実施され、スワットが利用した車の中から、けん銃3丁等が発見されたため、Xらは現行犯逮捕された。 スワットらは、いずれも、Xを警護する目的で実包の装てんされたけん銃を所持していたものであり、Xも、スワットらによる警護態様、X自身の過去におけるボディガードとしての経験等から、スワットらがXを警護するためけん銃等を携行していることを概括的とはいえ確定的に認識していた。また、Xは、スワットらにけん銃を持たないように指示命令することもできる地位・立場にいながら、そのような警護をむしろ当然のこととして受入れ、これを認容し、スワットらも、Xのこのような意思を察していた。 そこで、Xらに銃砲刀剣類所持等取締法違反の共謀共同正犯が成立しないかが争われた事案。
(3) 実践的書き方
※銃刀法は特別法ですが、ここでは判例の事案にそってやっていきます(参考)。法令名はこれでいいです。 第1 Xの罪責 1 銃砲刀剣類所持罪(銃刀法3条1項) X自身は、けん銃を所持していないが、X配下のスワットらがけん銃を所持している。そこで、Xに同罪の(1)(60条)が成立しないか。 (1)(2) ※例によって、要件を先に列挙しない書き方で書いてみました (3)の成立には、特定の犯罪を(4)で(5)する(6)の(7)((8))が必要である。しかし、本件でXはスワットらに対し、(9)にけん銃を所持すべき(10)をしていない。 ※ここは明確な基準がないので、いきなりあてはめをするしかありません。あてはめのやり方はいろいろあるでしょう。 しかし、スワットらはXの外出時に終始警護する者らであり、Xはスワットらに(11)の(12)を出すのではなく、スワットらがXの(13)を酌んで行動すべきものとされていた。一方で、本件直前に別の組長が殺害される事件が起きていることからすれば、スワットらがけん銃を準備してXを警護することは(14)に(15)できる。 そして、Xは組長の地位にあり、スワットらがけん銃を所持することも所持しないことも(16)できたと考えられることから、本件でスワットらがけん銃を所持することについてはXとの間に(17)の(18)があったといえる。 ※答案全体の分量との関係で、長くなりすぎないように注意しました。(特に最初の論点が長くなりがち) (2)実行 そしてこの共謀に基づき、スワットらはけん銃を所持しているので、銃砲刀剣類所持罪の(19)(20)があったといえる。 (3)正犯意思 また、スワットらのけん銃所持は、Xを警護するというXの(21)が(22)だから、Xに(23)も認められる。 (4)結論 以上より、Xに銃砲刀剣類所持罪の共謀共同正犯が成立する。 ※「スワットらに銃砲刀剣類所持罪が成立し、Xはその共謀共同正犯となる」でもよいです。
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