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1-39-0 刑法判例39-詐欺罪と財産上の損害

(1) 事案(最決H22.7.29)

Xは、Yらと共謀の上、航空機でカナダに不法入国しようとしている中国人Cのため、航空会社係員を欺いて、関西国際空港発バンクーバー行きの搭乗券を交付させようと企てた。そして、平成18年6月7日、関西国際空港旅客ターミナルビル内のA航空チェックインカウンターにおいて、Yは、A航空から業務委託を受けている会社の係員Vに対し、真実は、搭乗券をCに交付してCを航空機に搭乗させてカナダに不法入国させる意図であるのにその情を秘し、あたかもYが搭乗するかのように装って、Yに対する航空券及び日本国旅券を呈示して、A航空36便の搭乗券の交付を請求し、上記係員をしてその旨誤信させて、同係員VからYに対して同便の搭乗券1枚を交付させた。 なお本件において、航空券及び搭乗券にはいずれも乗客の氏名が記載されている。本件係員らは、搭乗券の交付を請求する者に対して旅券と航空券の呈示を求め、旅券の氏名及び写真と航空券記載の乗客の氏名及び当該請求者の容ぼうとを対照して、当該請求者が当該乗客本人であることを確認した上で、搭乗券を交付することとされていた。このような本人確認が行われている理由は、航空券に氏名が記載されている乗客以外の者が航空機へ搭乗すると、航空機の運航の安全上重大な弊害をもたらす危険性があることや、A航空がカナダ政府から同国への不法入国を防止するために搭乗券の発券を適切に行うことを義務付けられていたこと等の点において、当該乗客以外の者を航空機に搭乗させないことがA航空の経営上の重要性を有していたからである。 本件係員らは、上記本人確認ができない場合には搭乗券を交付することはなかった。また、これと同様に、本件係員Vらは、搭乗券の交付を請求する者がこれを更に他の者に渡して当該乗客以外の者を搭乗させる意図を有していることが分かっていれば、搭乗券の交付に応じることはなかった。 Yに詐欺罪が成立するか。





3 実践的書き方

第1 Yの罪責 1 詐欺罪(246条1項) ※「損害の発生」がポイントなので、問題のない要件はできるだけ短く (1)Yは係員Vに虚偽の事実を告げて搭乗券の交付を受けているので、詐欺罪が成立しないか。 この点まず、真実はCを航空機に搭乗させる意図であるのに、Yが搭乗するように装っているので、欺く行為がある。そして、VはYの航空券とパスポートを確認しているので、錯誤に陥っている。そして、VはYに対する搭乗券をYに交付しているので、処分行為があり、Yはこれを受け取っているので利益の移転がある。なおここで、搭乗券が同条の「財物」にあたるか問題となるが、搭乗券は航空機に搭乗できるという財産的価値を有しているので、財物にあたる。 (2)次に、A航空に損害が発生したかが問題となる。なぜなら、Yの代わりにCが搭乗しても、規定の搭乗料はすでに支払われているからである。 しかし、この点は損害が発生しているというべきである。 ※結論先出型で書くことによって、このあと理由をどこまで書くかが、残り時間との関係で調整できます。(理由が長くなりそうなので) なぜなら、発券された搭乗券とは異なる人物が航空機に搭乗すると、航空機の運航の安全上重大な危険性があり、また不法入国を防止するためにも、搭乗券の発券は本人確認のうえ、適切に行うことを義務付けられていたからである。すなわち、これら本人確認ができない場合はVは搭乗券を交付することはなかったから、実際にYが搭乗券の交付を受けることは損害の発生とみることができる。 ※個別損害説を意識した書き方。余裕があったら、ここで「なぜなら」として、個別損害説の論証を入れてもよいです。 (3)そのほか、Yには故意・不法領得の意思も認められ、全体が因果関係に包摂されていることから、Yに1項詐欺罪が成立する。

※回答内容が保存され、問題作成者が閲覧できます