1-22-0 刑法判例22-共犯と過剰防衛
(1) 事案(最決H4.6.5)
Xは、昭和64年1月1日午前4時ころ、友人Yの居室からフィリピンパブ「アムール」に電話をかけて同店に勤務中の女友達と話していたが、店長Aから長い話はだめだと言われて一方的に電話を切られた。これに立腹したXは、再三にわたり電話をかけ直して女友達への取次ぎを求めたが、Aに拒否された上、侮辱的な言葉を浴びせられた。そこでXは憤激し、殺してやるなどと激しく怒号し、「アムール」に押しかけようと決意して、同行を渋るYを「意気地なし。男じゃないのか。友達じゃないのか。」等と強く説得し、包丁(刃体の長さ約14.5cm)を持たせて一緒にタクシーで同店に向かった。 Xは、タクシー内で、自分もAとは面識がないのに、Yに対し、「おれは顔が知られているからお前先に行ってくれ。けんかになったらお前をほうっておかない。」などと言い、さらに、Aを殺害することもやむを得ないとの意思の下に、「やられたらナイフを使え。」と指示するなどして説得し、同日午前5時ころ、「アムール」付近に到着後、Yを同店出入口付近に行かせ、少し離れた場所で同店から出て来た女友達と話をしたりしていた。 Yは、内心ではAに対し自分から進んで暴行を加えるまでの意思はなかったものの、Aとは面識がないから、いきなり暴力を振るわれることもないだろうなどと考え、「アムール」出入口付近でXの指示を待っていた。ところが、同店から出て来たAにXと取り違えられ、いきなりえり首をつかまれて引きずり回された上、手けん等で顔面を殴打され、コンクリートの路上に転倒させられて足げりにされた。Yも抵抗したが、頼みとするXの加勢も得られず、再び路上に殴り倒されたため、自己の生命身体を防衛する意思で、とっさに包丁を取り出し、Xの上記指示どおり包丁を使用して、Aを殺害することになってもやむを得ないと決意し、包丁でAの左胸部等を数回突き刺し、心臓刺傷及び肝刺傷による急性失血により死亡させた。 そこで、Xに殺人罪が成立しないかが争われた。
(3) 実践的書き方
第1 Yの罪責 1 殺人罪(199条) …(客観的構成要件・故意について検討→肯定) 2 違法性阻却事由(36条) …(要件の検討→過剰防衛) 第2 Xの罪責 1 殺人罪の共同正犯 XはタクシーのなかでYに包丁を渡し、「やられたらナイフを使え」と指示していることから、A殺害の事前(1)があったといえ、(2)((3))も認められる。また、Yは後に包丁を使ってAの左胸等を刺突していることから、共犯者による(4)があるといえる。 2 違法性阻却事由 (1)(5)の(6) Yについては上記の通り(7)となる。そこで、Xについても(8)となるか。この点、行為者が攻撃された(9)を(10)して、相手に対し(11)に(12)行為をする(13)((14))で侵害に臨んだときは、侵害の(15)を(16)ものと解する。 そこで検討すると、YはAと面識がないからいきなり暴力を振るわれることもないだろうと考えており、また自ら(17)暴行を加える意思もなかったことから、(18)に(19)といえる。これに対し、Xは電話で侮辱的な言葉を受けたことに憤激して殺してやるなどと述べ、Yに包丁を持たせて「やられたらナイフを使え」と指示していることから、(20)が認められる。 (2)以上より、Xについては(21)が認められず、(22)・(23)いずれも成立しない。 (3)よって、Xには(24)の(25)が成立する(199条、60条)。また、Yにも(26)の(27)が成立するが、Yは36条2項により(28)を受ける。 ※その他の違法性阻却の要件を、先にYのところで検討していれば、Xのところで再度書く必要はないでしょう。(同じなので)
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