1-45-0 刑法判例45-私文書偽造罪における名義人の承諾

(1) 事案(最決S56.4.8)

Xは、酒気帯び運転等により、運転免許を90日間停止される処分を受けた。そこで、免許停止となったことを、会社を共同経営していたYに打ち明けたところ、Yは「免許がなかったら困るだろう。俺が免許証を持っているから、俺の名前を言ったら。」と勧め、XにYの運転免許証を見せてやり、メモ用紙にYの本籍・住居・氏名・生年月日を書いてこれをXに渡した。 その後Xは、昭和53年10月18日午前0時30分頃、東京都目黒区付近の道路で普通乗用自動車を運転していたところ、警察官から取締りを受けた。そして、警察官から運転免許証の提示を求められたが、「免許証は家に忘れて来ました。」と言ってYの氏名等を称し、警察官が作成する道路交通法違反の交通事件原票(私文書)中の供述書欄の末尾にYと署名し、これを警察官に提出した。 そこで、Xに私文書偽造罪・同行使罪が成立しないかが争われた事案。





(3) 実践的書き方

第1 Xの罪責 ※特別法(道交法)違反は除いています。 1 私文書偽造罪(159条1項) (1)Xは、交通事件原票の供述書欄の末尾にYと署名しているので、事実証明に関する私文書において、文書の名義人と作成者との人格の同一性を偽っているといえ、同条の「偽造した」にあたる。なぜなら、作成者とは文書に意思や観念を表示した者を言うところ、本件においては違反の状況を認識し、観念を表示したXが作成者というべきだからである。 (2)もっとも、YはXに対して「俺の名前を言ったら。」と述べ、本籍等を記載したメモを渡しているので、Xに名義の使用を承諾していると考えられる。そこで、Xの違法性が阻却されないか。 ※承諾は、違法性阻却の問題ととらえました。 この点、私文書については、原則として代筆が認められるから違法性が阻却されるが当該文書の性質上自署しか認められないものについては違法性は阻却されないものと解する。 これを本件についてみると、本件原票の署名は交通違反を起こした事実を確認するとともに、名義人と作成者の同一性を確認する手段ともなっている。したがって、当該文書の性質上自署しか認められないものであるといえ、違法性は阻却されない。 ※ここは深く考えると難しい。ボロを出さないように短くまとめました。 (3)そして、XはYの氏名を署名しているので、「他人の…署名を使用して」にあたり、また故意及び行使の目的も認められる。 以上より、Xに私文書偽造罪が成立する。 (4)また、Xは本件原票を実際に警察官に提出しているので、同行使罪(161条1項)も成立し、両者は通常手段と結果の関係に立つので、牽連犯となる(54条後段)。

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