Xは、B方四畳半一間を賃借していたが、Bの妻A(当時63歳)と折り合いが悪くなって立ち退きを要求され、昭和38年10月16日に転出した。しかし、Xは生活費に窮していたことから、支払い済みの(9月末までの)部屋代2万数千円の返還を求めてB方に赴き、Aに対し交渉した。 しかし、Aから金員の返還を強く拒絶された上、同年10月分の日割り賃料を請求されたことに激高し、このうえはAに暴行を加えて金員を強取しようと決意し、やにわにAの胸倉をつかんであおむけに倒し、左手で頸部を絞めつけ、右手で口部を押え、さらにその顔面を夏布団でおおい、鼻口部を圧迫するなどして、Aの反抗を抑圧したうえ、A所有の現金240円およびB名義の銀行通帳1通を強取し、その際前記暴行により、Aに急性心臓死を惹起せしめて、即時その場で同女を死亡するにいたらしめた。 ところでAはこの当時、心臓に病的素因、すなわち心臓および循環系統に相当高度の変化が存し、そのためにAは、極めて軽微な外因(例えば口ぎたなくののしられるとか、強いせきをしたり、子供を叱るため大声を出して興奮するとか、テーブルスピーチをするため立ち上るとか、排便のためりきむ等)によって、突然心臓機能の障害を起こして心臓死にいたるような心臓疾患の症状にあつた。しかし、Aの夫Bその他の近親者も、かかりつけの医師も、そして恐らくはA自身も、これを知らなかつたものと認められた。 そこで、Xは(強盗致死で起訴されたが)致死の部分については責任を負わないとして争った事案。
・「刑法上の因果関係」と広くとらえてしまうと、統一的な結論が出ていないので、例えば「強盗致死の場合の、行為と結果の因果関係」と狭くとらえて考えると、書きやすいでしょう。(傷害致死の場合も、同様に論じられることが多いと思います。)
・本件は、第三者の行為が介在しないので(被害者の身体的素因が介在したケースなので)、第三者の行為が介在したケース(追突によりトランク内の被害者が死亡した事件など)とは区別されることが多いです。
・Xの行為の後に、第三者の行為が介在した場合は、強盗致死や、傷害致死であっても、「第三者の行為が介在した類型」で検討したほうがよいでしょう。
第1 強盗罪 …(Xの強盗罪について検討→成立) 第2 Aが死亡した点について 1 さらに、本件でAは死亡しているため、Xは強盗致死の罪責まで負うかが問題となる(240条後段)。 (1)この点、強盗致死罪は強盗罪の(1)として規定されているところ(240条)、(2)は基本犯のなかにもともと(3)の(4)の(5)が含まれた行為を(6)したものである。 したがって、強盗致死罪の成立には、行為と死亡結果との間に(7)があれば足りるものと解する。 ※かなり舌足らずですが、もともと死亡しやすい行為を特に類型化して立法化しているのだから、改めて別途高度な因果関係の存在まで要求しなくていいんだ、というようなことを言っている部分。 (2)(あてはめ) これを本件についてみると、Aの心臓に病的素因があったとは言うものの、XがAをあお向けに倒したり、夏布団で顔面を覆ったりしなければ、Aが急性心臓死をすることはなかったものと認められる。 ※「条件関係」の内容を特に別途定義立てせずに、短くあてはめて書く方法。 したがって、あれなければこれなしの関係があるといえ、Xの行為とAの死亡との間に条件関係があるといえる。 2 以上より、Xは強盗致死の罪責を負う。
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