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1-40-0 刑法判例40-詐欺罪における実行の着手

(1) 事案(最判H30.3.22)

長野市内に居住するAは、平成28年6月8日、Aの甥になりすましたYからの電話で、「仕事の関係で現金を至急必要としている」旨の嘘を言われ、その旨誤信し、甥の勤務する会社の系列社員と称するZに現金100万円を交付した。 その後、Wらはさらに、Yらの詐欺被害を回復するための協力名下に、Wらを警察官であると誤信させたうえ、Aに預金口座から現金を払い戻させた上で、Xに警察官を装ってA宅を訪問させて現金を交付させ、これをだまし取ることを計画した。 その後Aは、平成28年6月9日午前11時20分頃、警察官を名乗るWからの電話で、「昨日、駅の所で、不審な男を捕まえたんですが、その犯人がAの名前を言っています。」「昨日、詐欺の被害に遭っていないですか。」「口座にはまだどのくらいの金額が残っているんですか。」「銀行に今すぐ行って全部下ろした方がいいですよ。」「前日の100万円を取り返すので協力してほしい。」などと言われ(1回目の電話)、同日午後1時1分頃、Wらからの電話で、「僕、向かいますから。」「2時前には到着できるよう僕の方で態勢整えますので。」などと言われた(2回目の電話)(以下併せて「本件嘘」という)。 Xは、これに先立つ6月8日夜、氏名不詳者から長野市内に行くよう指示を受け、同月9日朝、詐取金の受取役であることを認識した上で長野市内へ移動し、同日午後1時11分頃、同氏名不詳者から、A宅住所を告げられ、「お婆ちゃんから金を受け取ってこい。」「29歳、刑事役って設定で金を取りに行ってくれ。」などと指示を受け、その指示に従ってA宅に向かったが、A宅に到着する前に警察官から職務質問を受けて逮捕された。 そこで、Xの罪責の前提として、Wに詐欺罪の着手があったといえるかが問題となった。







(3) 実践的書き方

※事案の被告人はXでしたが、答案はW部分で検討します

第1 Wの罪責・詐欺罪(246条1項) 1 実行の着手 (1)Wは、本件嘘を述べた(第一行為)後、Xに金員を受け取りに向かわせる計画であったものの、XはAに金員の交付請求(第二行為)ができず逮捕されている。そこで、Wが本件嘘を述べた行為につき、詐欺罪の実行の着手を肯定できるか。 (2)実行の着手とは、構成要件の予定する結果を発生させる直接的・現実的危険性を有する行為が開始したことをいう。 そして、複数の行為を重ねて結果の実現を目指すという犯行計画において、第一行為時にかかる危険を認めるには、①第一行為が、第ニ行為を確実かつ容易に行うために必要不可欠の行為であり、②第一行為に成功した場合、それ以降の行為を行う上で障害となる特段の事情がなく、③第一行為と第ニ行為との間に時間的場所的近接性が認められることを要する。 ※ここはいろんな書き方があり得ます。ここでは、クロロホルム事件の規範をそのまま持ってきました。 (3)(①必要不可欠) ・第一行為→あらかじめ現金をA宅に移動させた上で、後にXにA宅を訪問させて警察官を装い、現金の交付を求める計画上、確実かつ容易に行うために必要不可欠 (②障害となる事情) ・第一行為に成功すれば、Aは別途警察に通報することも考えにくく、障害となる事情はない (③時間的・場所的近接性) ・WはAに対し平成28年6月9日午前11時20分頃の電話で第一行為、Xが同日午後2時前にAの自宅に着くように第二行為を計画→時間的・場所的近接性も認められる (4)よって、第一行為開始時において、詐欺罪の実行の着手があったといえる。 … 第2 Xの罪責・詐欺罪(246条1項) ・XはWと、計画全体を知って共謀→共同正犯が成立

※回答内容が保存され、問題作成者が閲覧できます