Xは、乳幼児Ａの実母であり、夫のＢと共に親権者としてAを監護していた。 Aは先天性ミオパチーという難病を患っており、出生当初から筋力が弱く、嚥下障害等があったため、他者による適切な栄養管理等が必要であった。 Aは平成22年８月に出生し、平成23年３月までは入院していたがその後退院し、退院後もしばらくは経鼻チューブにより栄養摂取をしていた。平成25年１月には経鼻チューブを外し、食物のみから栄養をとるようになった。 しかし平成26年３月以降、Aは丸一日食事をしなかったり、1日2食や1食になったりなど、食事が不規則になった。 Aの出生後の身長、体重は全体として増加していたものの、体重については平均的な女児の成長曲線を下回っており、数か月の間に減少したこともあった。そしてXは、Aの体重について正確に把握していたとはいえないものの、日常生活の中でAの体重が順調には増加しておらず、やせていることについても認識していた。さらに平成26年１月の段階で、ＢもAの体型や手足が細いと感じていた。 一方で、XはＢとの間で、Aが２日以上食事をとらなかったら病院に経鼻チューブをもらいに行くことで合意しており、平成26年3月ころ以降も、AをXの友人やBの親族らと会わせるなどしていた。またその際、Ａの体格について健康上の問題をXやBに指摘した者は見当たらない。 平成26年５月23日ころ、XまたはBが、Aの様子を動画撮影したが（以下「本件動画」という）、そのころにおけるAの姿は、これに先立つ平成25年10月14日に撮影されたＡの写真と比べて明らかに手足が細く、ふくらはぎの骨や膝の関節の形状を見てとれるような状態であった。 その後平成26年６月15日（死亡当時３歳10カ月）、Aは自宅で低栄養に基づく衰弱により死亡した。Xは保護責任者遺棄致死の罪責を負うか。
※今回は、保護責任者遺棄致死について検討します
第１ Xの罪責 １ (1)(2)（218条、219条） （１）Xは、Aがやせていること等を(3)しているのに、医師の診察や治療を受けさせていない。その結果Aが死亡しているので、Xに同罪が成立するか。 そこで検討すると、Aは死亡当時３歳10か月であり、218条の「幼年者」にあたる。またXはAと同居する母であるから、「(4)する(5)のある者」にあたる。 （２）ア 次に、同条にいう「その(6)に(7)な(8)をしない」とは、①被害者の(9)のために(10)の(11)を必要とする状況が存在することを(12)として、②その者の(13)に(14)な(15)の(16)を(17)ことをいうと解する。なぜなら、同条は、「(18)に」としていることから、(19)の(20)を生じさせる程度の(21)を罰する趣旨と解されるからである。 ※ここは、私見です イ これを本件についてみると、遅くとも本件動画撮影時には、これに先立って撮影された写真よりも明らかに手足が細い状態であったのだから、客観的に重度の栄養不良状態にあったといえる。したがってこのころまでには、経鼻チューブなどの栄養供給方法が医師によって適切になされることが必要だったといえるから、①が認められる。 にもかかわらず、XはAに適切な医師の診察や治療を受けさせていないから、②が認められる。 ウ 以上より、XはAに対し「その(22)に(23)な(24)をしなかった」といえる。 （３）次に、Xに(25)(26)の(27)が認められるか。 (28)とは、(29)を(30)し、(31)することをいい、本件では上記①②を(32)・(33)することをいう。これを本件についてみると、XはAがやせていること、および、本件動画撮影時において、これに先立って撮影された写真よりも明らかに手足が細い状態であることを(34)していたことが認められる。 しかし、平成26年3月ころ以降も、AをXの友人やBの親族らと会わせるなどしており、またその際にAの健康上の問題を指摘されたこともなく、Aの(35)に(36)が及んでいると(37)していたとまでは認められない。また、Aが２日以上食事をとらなかったら病院に経鼻チューブをもらいに行くことでBと合意しており、Aに医師の診察や治療を受けさせることをあえて避けていた事情もないから、Aが医師の診察や治療が必要な状態だと(38)していなかったものと認められる。 ※紫文字部分は、長いわりに説得力が弱いので、省略候補かも…？ （４）結論 以上より、本件ではXに(39)(40)の(41)が認められず、同罪は成立しない。したがって、その(42)(43)である(44)(45)も成立しない。
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