1-14-0 刑法判例14-早すぎた結果の発生

(1) 事案(最決H16.3.22)  Aは夫Vを事故死に見せ掛けて殺害し生命保険金を詐取しようと考え、Bに殺害の実行を依頼し、Bは、報酬欲しさからこれを引受けた。そしてBは、他の者に殺害を実行させようと考え、実行犯Cら3名を仲間に加えた。Aは、殺人の実行の方法についてはBらにゆだねていた。  Bらは、V殺害の方法を以下のような計画とした。すなわち、実行犯3名の乗った自動車(以下「犯人使用車」)をVの運転する自動車(以下「V使用車」)に衝突させ、示談交渉を装ってVを犯人使用車に誘い込み、クロロホルムを使ってVを失神させた上、最上川付近まで運び、V使用車ごと崖から川に転落させてでき死させるというものであった。Bは平成7年8月18日、実行犯3名に実行を指示した。  同日夜、Bと実行犯3名は、宮城県石巻市内の路上において、計画どおり、Vを犯人使用車の助手席に誘い入れた。同日午後9時30分ころ、多量のクロロホルムを染み込ませてあるタオルをVの背後からその鼻口部に押し当て、クロロホルムの吸引を続けさせてVを昏倒させた(以下「第一行為」)。  その後、Bと実行犯3名は、Vを約2km離れた石巻工業港まで運び、同日午後11時30分ころ、ぐったりとして動かないVをV使用車の運転席に運び入れた上、同車を岸壁から海中に転落させて沈めた(以下「第ニ行為」)。  Vの死因は、でき水に基づく窒息であるか、そうでなければ、クロロホルム摂取に基づく呼吸停止、心停止、窒息、ショック又は肺機能不全であるが、いずれであるかは特定できず、Vは、第ニ行為の前の時点で、第一行為により死亡していた可能性があった。  Bらは、第一行為自体によってVが死亡する可能性があるとの認識を有していなかったが、客観的にみれば、第一行為は、人を死に至らしめる危険性の相当高い行為であった。  そこで、Bらに、Vに対する殺人罪が成立するかが争われた。



(3) 実践的書き方 ・この判例も、そんなに長いものではないですが、実行の着手時期については、ある程度規範が立てられており、これを参考にして答案を書く受験生が多い模様です。 ・ただし判例は、因果関係の錯誤については、結論言い切りに近く、理論的根拠が不明です。  →もっとも、因果関係の錯誤については明確な解答や定説がなく、端的に肯定する論述で十分です。 第1 Bの罪責 1 殺人罪(199条)  Bが、Vにクロロホルムを吸引させて昏睡させ、その後結果としてVが死亡した点につき、殺人罪が成立しないか。 2 実行の着手 (1)Bの計画では、Vを昏睡させて(第1行為)、車ごと海中に沈めることで(第ニ行為)、V殺害の目的を遂げようとした。しかし、第ニ行為を行う前にVが死亡している可能性があるため、第一行為につき、殺人の(1)(2)を肯定できるか。 ※端的な問題提起で構いません。 (2)(3)(4)とは、(5)(6)する(7)を発生させる(8)(9)(10)を有する行為の開始時点をいう。  第一行為時にかかる危険を認めるには、①第一行為が、第ニ行為を(11)かつ(12)に行うために(13)の行為であり、②第一行為に成功した場合、それ以降の行為を行う上で(14)となる(15)(16)がなく、③第一行為と第ニ行為との間に(17)(18)(19)が認められることを要する。 ※極端に時間がないときは、二次規範を書かずに、直接あてはめに入る方法もあります。(本件判例がすでに有名なので) (3)(①(20))  Vを昏睡させてしまえば、Vは車外に出て溺死を避けることはほとんど不可能となる。そこで、第一行為は車ごとVを海中に沈めるという計画上、(21)といえる。 (②(22)となる(23))  第一行為に成功すれば、Vは助けを求めることもできず、Bらのなすがままである。すると、Bらの殺害計画を遂行する上で(24)となるような(25)はもはや存在しない。 (③(26)(27)(28))  Bらは、第一行為の後、すぐに第二行為を連続して行う計画であった。また、第一行為の場所から港までは2キロほど離れているが、車であれば10分ほどで移動できるから、(29)(30)(31)も認められる。  以上より、Bの第一行為は、Vが死亡する(32)を有する行為の開始時点といえる。 (4)よって、第一行為開始時において、殺人罪の(33)(34)があったといえる。 3 そして、Bは計画通りVを車ごと海に沈め、Vが死亡していることから、殺人罪の(35)の発生が認められる。また、第一行為は客観的にみれば人を死に至らしめる(36)(37)(38)行為であったから、(39)も認められる。 4 (40)(41) (1)Bは、Vを海中に沈めて溺死させようとしていたが、Vは第一行為により死亡している可能性があった。そこで、もしBの(42)(43)(44)が異なる場合、故意が認められるか。 (2)(45)(46)(47)(48)であり、その(49)(50)の成立には必要である。もっとも、(51)(52)の形で与えられているから、認識した(53)と現実の(54)(55)(56)(57)していれば、故意は認められる。 (3)本件でも、第一行為は客観的にみれば人を死亡させる危険性の高い行為であったから、(58)(59)での(60)は認められ、仮にVが第一行為で死亡していても、(61)(62)されない。 5 以上より、Bの上記行為につき、殺人罪が成立する。



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