1-43-0 刑法判例43-不燃性建造物に対する放火
(1) 事案(最決H1.7.7)
Xは、鉄骨鉄筋コンクリート製の12階建マンション内に設置されたエレベーターのかごの床上に、ガソリンを染み込ませた新聞紙等を置き、さらにライターで別の新聞紙に点火し、これを床の新聞紙等に投げつけた。その結果、同エレベーターのかごの側壁として使用されている化粧鋼板の表面約0.3平方メートルを溶融、気化させて、燃焼させ、一部は炭化状態となり、一部は焼失した。 なお、本件エレベーターは、積載量600kg、9人乗りのもので、本件マンションのほぼ中央部に設置され、集合住宅である本件マンションの居住者が各階間の昇降に常時利用している共用部分である。仮に本件エレベーターのかごをその収納部分から取り外そうとすれば、解体してエレベーター扉から搬出するなど、作業員約4人がかりで1日の作業量を要するものであった。 また、本件エレベーターのかごの側壁は、厚さ1.2mmの鋼板の内側に当たる面に、化粧シートを合成樹脂粘着剤(アクリル系樹脂)で貼りつけた化粧鋼板でできている。鋼板自体は鉄鋼製であり不燃性であるが、化粧シートそのものは可燃物であり、ある程度の高温にさらされると、溶融し、気化して燃焼し、その際生じる炭化物も最後には焼失するものであった。 Xに現住建造物放火罪が成立するか。
(4) 実践的書き方
第1 Xの罪責 1 現住建造物放火罪(108条) (1)現住性 Xは、新聞紙に火をつけ、エレベーターのかごの中のガソリンをしみこませた新聞紙に投げつけているので、「放火して」といえる。では、本件エレベーターのかごは現に人が住居に使用しているといえるか。 ※ここは、話が少し飛んでいます(本来、かごには人が住まないこと、だから住居部分との一体性が問題になることを書かないといけない)が、結論部分でどうせ書くので、問題提起は省略しました。 この点、建造物の一体性は、①物理的一体性、または②機能的一体性を有し、かつ③延焼可能性がある場合一体といえると解する。なぜなら、現住建造物放火罪は、火力が有する類型的な人の生命・身体に対する重大な危険のために、重く処罰するとされたものと解されるからである。 そうすると、本件エレベーターのかごは、取り外すためには4人がかりで1日の作業を要するものだから、人の居住する住居部分と物理的に一体となっている(①)。また、本件エレベーターは本件マンションの居住者が各階間の移動に常時使用する共用部分でもあるから、機能的一体性を有する(②)。さらに、本件エレベーターで出火すると、その程度によってはエレベーターのかごの上下の空洞や空洞内の電線、動力機器などを経由して住居部分への延焼可能性も認められる(③)。 ※設例では事情が少ないですが、延焼可能性についても肯定しました。 以上より、本件エレベーターのかご自体には人は居住していないが、人が起臥寝食に用いている住居部分と一体として、現住建造物にあたる。 (2)焼損 次に、本件では焼損したといえるか。この点、焼損とは、火が媒介物を離れて目的物に移り、独立して燃焼を継続する状態となった時点をいうと解する。なぜなら、そのような状態になった時点で、火力による公共の危険が発生すると考えられるからである。 ※結論先出しで書くことにより、理由部分で「そのような状態」などと略することもできます。 そうすると、本件では確かに化粧鋼板の表面約0.3m2を溶融、気化させたにとどまるとも思える。しかし、化粧シートそのものは可燃物であり、ある程度の高温にさらされると、溶融・気化・燃焼・焼失しうるものであったと認められるから、化粧シートが溶融・気化・燃焼・焼失している本件では、独立して燃焼を継続しうる状態となったといえ、「焼損した」にあたる。 ※ここは、もう少し事情があったら、詳しくあてはめたいところですが… (3)そして、Xにはこれらの故意も認められるから、現住建造物放火罪が成立する。
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